石窯の製作記録

2018年、別荘の庭にひとりで石窯を建設しました。とは言ってもド素人のこと、どうやったらいいのかもわからないので、書籍や先人の記録を参考にしながらの手探りでした。


前年の夏、耐火レンガを積み上げるだけの箱型石窯を試作しました。いちおうピザは焼けたんだけど、隙間から煙が漏れて温度が上がりにくいのと、焚口が低いところにあるため足腰に負担が……。

意を決して築炉に取り組むことを決意しました。だた、自分ひとりでやるのは心もとない。ネットで先人の知恵を探しました。耐火レンガをアーチ状に積むのが良さそうだけれど、自分にできるか不安、というか、うまく出来ない自信だけはある。探した挙句、そーさんの製作記録に出会いました。さまざまな工夫を教わり、やっと勇気が湧きました。

建設場所は庭の片隅。イチイの木の間にしました。向こうに見えるのはお隣の別荘(20年以上使われていないが)。
年が明けたころに設計を開始。三次元CAD(Autodesk社製Fusion360)を使ってみました。このCADは機能が高いのに、趣味用途なら無償で使用できる、ありがたいライセンスがあります。

設計の骨子は以下のとおりです。

  • 熱が上部に溜まりやすいドーム型を模擬するため、アーチに段差を付ける。
  • 手前の低いアーチ上にダンパーと煙突をつける。
  • 一人でも組み立てられる(持ち上げられる)部材を使う。
  • 雨対策として、箱型の壁と屋根をつける。
四月になったら作業を開始。まず建設用地の表土を掘り下げ、丈夫な地盤を露出させます。
基礎を作るため、木枠を用意したら、
砂利を入れて突き固めます。飛んだり跳ねたり、太い丸太を打ち付けたり。
基台にする重量ブロックを置いてみて、鉄筋を入れる場所を決めます。
横方向のズレに堪えるよう、金属メッシュを置いて、鉄筋を立てます。
コンクリを練って木枠に注ぎ込み(打ち込み)ます。必要量を練るのに苦労したので、作業が終わったころには、薄暗くなっていました。ブルーシートで養生して、今回は作業終了。
コンクリートが固まった頃を見計らって、連休明けにブロックを積み上げました。上に顔を出しているアンカーボルトは、あとで外壁を固定するため。
天気のいい日はブロックを積み、雨の日は合板の罫書き作業。定規に穴をあけて、コンパス代わりにしています。
外壁と屋根、アーチ用冶具の板材を切り出します。冶具は半円形の厚板を台板上に並べ、薄板を貼ってかまぼこ型を作りました。5月はここまで。
6月は燃焼室がテーマ。ブロックの上に大判レンガ(耐火レンガ5枚分のサイズ)を4枚並べて、火床を作ります。一枚18キロあるけど、なんとか一人で持ち上げられた。周囲の赤レンガは、あとで化粧するため。
多くの方が使用するアサヒキャスターではなく、近くにあるコメリというお店で調達できるトーヨーマテラン社の耐火モルタルを使いました。水で練るだけで固まり、1400℃に堪えるというもの。左は骨材の粒子が荒い25kg袋で6袋使いました。右は粒子が細かい補修用(2kg)です。漏れの補修や煙突の組み立てに重宝しました。
ちなみにコメリでは資材輸送に軽トラックを貸してくれます。大体は自分の車で運べたけど、構造合板や金属メッシュ、波板など大型の資材を調達したときは貸してもらいました。
耐火レンガを三段積んで、燃焼室にします。目地を作る先人の知恵に従い、レンガの間に1センチ角の細棒を挟んで、目地を作りました。一部のレンガが黒くなっているのは、先代の箱型で使っていたものを再利用しているから。
大判レンガ3枚半を並べて、調理する焼床を作ります。後ろの空隙は、燃焼室に繋がっている。アーチを積み上げてから背面を閉じる前に、空隙の端にレンガを立ててバリアにし、食材が落ちるのを防ぎます(写真を撮り忘れた)。
帰宅前にレンガを積んで、最前列のアーチを形成してみた。大量に作ったクサビで形を整えられることを確認して、今回は終了。ブルーシートで覆って帰宅しました。
自宅でもできる作業。半平サイズ(通常の半分の厚さ)のレンガを4枚、粒子の細かい耐火モルタルで張り合わせます。これを二段つなげて煙突にする予定。
7月はアーチ組み。かまぼこ型の冶具を使い、まず最前列を積みます。中央部には煙突を挟み込んでいます。レンガとの間に隙間を作り、アルミ板で作ったダンパーを挿入できるようにしました。
2列目は半マスのサイズ。レンガ一枚分だけ高くして積みます。上を向いている目地にはモルタルを流し込むだけでいいけど、横を向いているところには、押し込むようにして入れました。
3列目はレンガ二枚分だけ高い。冶具を外したら、焼床の空隙前にレンガを立てて、土手にします。
背面の壁を作りました。壁をアーチの中に入れるには、レンガを加工しなければならないので、ヨーロッパの建物のように横に積み上げました。はみ出した角もデザインのうち?

このあと、前面開口部の一部を閉じて四角い口にし、煙突の2段目を積み上げました。煙突のうえにはアルミ板を曲げて作った屋根を、太い針金で取り付けました。

八月に入ったら試運転開始。目地の欠陥やひび割れを見つけては、粒子が細かい耐火モルタルで補修していきます。煙突の屋根は排気を妨げることが分かり、外してしまいました。

運転の合間にしこしこと飾りの準備。ブロック基台と赤レンガにはモルタルで下地を作っておきます。

ピザの投入用と、焼けたピザを取り出すための二種類のピザピールを作っておきました。それぞれのリンクをクリックすれば、作り方のページに移ります。。
まだ300℃まで上がらない状態で市販の冷凍ピザの試し焼き。なんとか食べられた。
耐火レンガが濡れないよう、使わないときはブルーシートで覆っておきます。トロイの木馬を彷彿とさせる。
世間の夏休み時期には家族が合流。自慢げに焼いてみせる。
ピザを焼く人は食べる暇がないという話は本当だと実感しました。焼リンゴや焼きカボチャも作りました。トウモロコシは皮のまま蒸し焼きにするとおいしい。
疑似ドームから降りてくる熱風は相当なもの。炉温を400℃まで上げると、板にアルミを被せただけの扉は燃えてしまった。
新しい扉はレンガを耐火モルタルで固め、板に張り付けて作りました。
9月まで運転を重ねてひび割れもなくなったので、雨除けの屋根を作ります。ブロックに埋め込んでおいたアンカーボルトに、梱包用のPPベルトを通します。その外側に構造合板で作った壁を載せ(一人での作業は困難を極めた)、壁に取り付けたアンカーボルトを使ってベルトで固定します。

赤レンガを並べた飾り部は、今のうちに白く塗装しておきます。

壁を作る前でも、耐火レンガの表面はほんのり暖かくなる程度でした。それでも断熱をしようと、壁とレンガの間にはビールの空き缶を、対流を防ぐため穴を下に向けて詰め込みます。半年かかって貯めた空き缶は段ボール4箱分(どれだけ飲んだんだよ!)あったが、簡単に入ってしまった。
金網で固定してから、屋根板を載せます。
屋根板も構造合板製。煙突との間には空隙を設け、内側に金網を張っておきます。

全体イメージは『蔵』。側面の黒い四角は、窓をかたどった飾り、正面上側の黒い四角はダンパー操作用の開口部です。

屋根板の合わせ目を防水し、煙突との空隙は金網の上に漆喰を載せていきます。板の保護用塗装をしたら、
ポリカーボネートの波板を重ねます。モルタルを塗っておいたブロック基台も、一部をマスキングして黒く塗装しました。
波板の合わせ目には、粘土で瓦様の出っ張りを作りました。粘土に防水性は期待していません。次の工作のための土台です。
漆喰と粘土の上に防水セメントを塗りました。これで防水は万全……のはず。
波板と防水セメントを黒く塗り、瓦屋根みたいに見せようとしました。
鬼瓦もそれらしく。
ブロック基台には、なまこ壁をまねして、漆喰を斜めに載せました。一回目はモルタル面との密着を重視して、多少はみ出しても構わないことに。煙突の表面も漆喰でお化粧しました。

しかし、低い位置の左官作業は辛い。地面に座り込んでも前傾姿勢になる。終わったころにはすっかり背中が痛くなってしまった。近所の温泉に直行。

二日後に漆喰を塗り重ねて立体感を出し、はみ出した部分には黒く塗装して目立たなくしました。

煙突の屋根は、木材をワインの栓のように加工して、その上に取付けました。石窯を使うときは取り外し、冷えたら栓をして雨を防ぎます。

正面扉を開けると、燃焼室と調理室が見えます。
これでおいしいピザが食べられる。
石窯に薪は必須。別荘地内で伐採したものや倒木を玉切りし、クサビや斧で割ったら縁の下で乾燥させます。おかげで、ここ数年薪を買ったことがありません。
塗装のついでに、十年近く使っているスモークハウスも化粧直ししました。

トップページに戻る

last update May 2019.